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本:『コンビニ人間』

中耳炎を患ってしまったのか、右耳の奥と右顎周辺に激痛があり、昨日おとといはこれといった作業もできずに終わってしまいました。医療センターに行き、GP(一般開業医 “General Practitioner”)に薬を処方してもらったので、今は症状が緩和するか様子を見ているところです。

そんなわけで、ぐったりとしていた二日間。眠っていない時間はベッドに横になりながら、audibleを聴いていました。村田沙耶香さん著の『コンビニ人間』です。第155回芥川賞受賞作品だそうですね。

ナレーションは女性お笑いタレントの大久保佳代子さんです。俳優さんや声優さんに比べると、やはり朗読の腕前では劣ってしまいますが、物語の空気感に大久保さんの声の質感がとても合っていたと思います。

長さは3時間42分とありますが、痛みに苦しみつつも暇を持てあましていたので、あっという間に聴き終わりました。本で読む場合でも160ページと短いので、さくっと読み終わりそうです。

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コンビニ人間 Check out this great listen on Audible.com.au. *本タイトルは、差し替え修正済みです。(2023年2月13日更新) 第155回(2016年)芥川龍之介賞受賞作 36歳未婚女性、古倉...

タイトルから想像できるように、主に主人公の働くコンビニエンスストアでの日常が描かれているのですが、あの、白熱灯に照らされた明るいコンビニエンスストアの光景を思い出して、なぜか切なく、ノスタルジックな気持ちになりました。日中よりも、仕事帰り、特に残業後の深夜に利用することが多かったコンビニエンスストア。横浜で一人暮らししていた若かりし頃の思い出が蘇ってきます。

オーストラリアにもコンビニエンスストアはもちろんありますが、日本のコンビニエンスストアとはまた違った雰囲気なのですよね。日本のコンビニエンスストアは、なんとなく、店員さんも含めて機械的というか、非生物的なイメージがあります。オーストラリアのコンビニエンスストアは、私にとっては駅の売店のような庶民的な印象です。24時間開いているところも滅多にありませんし。

あの独特の雰囲気は、日本全国のほとんどのコンビニエンスストアに共通するのではないでしょうか。

この本では、自活して他人に迷惑をかけずに生きていても、ただ18年間、コンビニエンスストアでのバイトで生計を立てているだけで、好奇の目で見られ、生き方を批判されてしまう主人公の苦悩が、手に取るように描写されていました。

実際に存在していそうな人物の話ですよね。社会に埋もれてしまっているがために、その人の人生に深く踏み込む機会でもないと生きざまの全体像が見えないようなストーリーで、最初から最後まで楽しんで聴くことができました。ありそうでなかった小説と言いますか。

幼少時代のエピソードから、若干、精神障害を患っている感がある人物像ですが、「普通」の意味が理解できず、良かれと思って動物としての目線で物事を判断すると、怖がられてしまうという状況に同情します。

普通の人間になれるよう試行錯誤しますが、社会で一般的に受け入れられている「普通」という部類に入ることができず、コンビニエンスストアでの勤務だけが、自分が社会の価値を構成しているという感覚が持てる逃げ場。しかし、そこでの勤続が反対に主人公を「普通」ではない人間に分類させてしまうという皮肉。

同調圧力で生きづらい世の中について考えさせられましたね。しきたりや「和」の文化を重んじる日本では、同調圧力が特に強いような気がします。まあ、オーストラリアでも出る釘は打たれることもなくはないですが。

マイノリティーには、生きづらい世の中ですよね。度合いにもよると思うのですが、多数意見が理解できる上でのマイノリティーはともかく、思考自体がマイノリティーの人々には、なぜ自分の言動が奇抜と捉えられてしまうのか、理解に苦しみ、居場所を失っていってしまうのではないでしょうか。SNSや交通網の充実などで世界が狭くなったからこそ、マイノリティーがマイノリティーであることをより意識せざるを得ない場面が増えた感覚があります。

でも、マイノリティーとして自分の価値観を貫き通して、「普通」の人が通らない道を通らないと、充実した人生を送れない気もします。実際、著名人は変わり者が多くないですか?周囲が文句を言えないほど突出してしまえば、反対に崇められることになるということかな?矛盾を感じますが、どちらにも転べず、バランス感覚も養えない場合、辛いでしょうね。

人生にはマニュアルというものがありません。選択肢が多いほど人は幸せという考え方が普及していますが、どう生きるのが正解なのかを見いだすことができずに苦しみ、いっそのこと人生のレールを敷いてもらえるほうが幸せな人もいるのかな、と考えさせられました。

私も、なんだかんだいいながら、集団の価値観を個人に押し付けることや、周囲に合わせるがために自己肯定をためらうことがあるのかもしれません。その点、見直したいなと思わせられた作品でした。

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