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本:『カラフル』

Audibleで森絵都(モリ エト)さん著の『カラフル』を聴きました。

主人公が中学生であることや、ナレーションがアニメっぽくて子供うけしそうなので、今までに私が聴いたAudibleの本とはだいぶ雰囲気が違うなと感じていたのですが、こちらの本は児童書だったのですね。お恥ずかしいことに、森絵都さんが児童文学の部門で数々の賞を受賞されていたことを、『カラフル』を聴き終わった後で知りました。

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カラフル Check out this great listen on Audible.com.au. 生前の罪により、輪廻のサイクルから外されたぼくの魂。だが天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図...

『カラフル』の出版は、もうかれこれ二十年ほど昔の2007年です。森絵都さんの作品の中では一番人気のようですが、デビュー作である『リズム』(1990年出版)では第31回講談社児童文学新人賞を受賞されていますし、2006年には『風に舞い上がるビニールシート』で第135回直木賞を受賞されています。『DIVE!』や『つきのふね』など、他にも多くの人気作品を手掛けていらっしゃるようです。

Audibleで『カラフル』のナレーションを担当された羽飼まり(ハガイ マリ)さんは、予想したとおり、声優さんでした。テレビアニメや映画の吹き替え、ゲームなど、幅広く活躍されているようです。『カラフル』では、主人公の中学三年生の少年の声を、作品の雰囲気ぴったりに表現されています。

ネタバレが多分にありそうなので、内容についてはあまり詳しく書きませんが、あらすじをできるだけ簡単に説明すると、生前の罪により輪廻のサイクルからはずされた魂が、輪廻のサイクルに戻るための再挑戦の機会を得て、自殺を図ったある少年の体に一年間という期間限定で宿り、自身の生前の罪を思い出す努力をしながら、その少年を取り巻く人々との関係を見つめていくというファンタジーです。

大人になってもいろいろな悩みは出てくるものですが、思春期には思春期なりに壁にぶつかりますよね。家族や友人との関係であったり、容姿のコンプレックスであったり、恋愛に関してであったり。

この物語のように、自分の記憶も含めて人生をゼロにリセットして、再度、生き方を見つめなおすということは、現実の世の中では不可能ですが、そんなチャンスがあったとしたら、先入観や周りの目に惑わされずにもっと素直に、もっと真摯に、自分の人生に向き合えるのかなと思ったりしました。他人の体にホームステイするという設定なので、自分自身のことではなく、他者の人生として客観的に状況を判断できますし、期間も限られているので、あまり受け身で過ごせる時間がなく、積極的に人生について考えていかなければならないという状況も、成長意欲を高める手助けになっているのかもしませんが。

しかし、とうていこの本のような状況はありえないともしても、

自分の求める生き方、しあわせとは何かを真剣に考え、あえて自分に厳しい選択をする勇気。

歩み寄って、その人の本当の姿を知ることの尊さ。

悩みの実態は些細なことだったり、日常には解決の種が潜んでいたりするケースが大いにあること。

一つ一つの命の重さ。

などを、自分自身の状況に置き換えて再考でき、とてもよくできた物語だなと感動しました。自己啓発本の児童文学バージョンのような印象ですが、大人でも十分に読み応えがあります。

思春期はとっくの昔に終わってしまった私でも、児童文学という観念にとらわれず楽しんで読めましたし、考えさせられる点も多かったです。もし私が中学校や高校の先生であったら、夏休みの読書感想文の課題本として、生徒さんたちに是非とも薦めたい本です。ページ数も272ページと程よいボリュームなので、一気に読み終えてしまう人もいるのではないでしょうか。

ぜひとも森絵都さんの他の作品も読んでみたいと思っています。

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