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本:『ナポレオン・ボナパルト : ア・ライフ』(洋書)

ここのところ毎晩、布団に入った後、眠くなるまで『ナポレオン・ボナパルト : ア・ライフ』(Napoleon Bonaparte : A Life)という洋書を読んでいました。ナポレオンの特定の時代を綴った本はたくさんあるものの、彼の生涯を一冊にまとめた本がないとのことで、著者であるAlan Schomが、10年に渡る壮大なリサーチの末に書き上げた大作です。ページ数は1,100ページにも及びます。

断言はできませんが、インターネットで探しても情報が見つからないので、おそらく、まだ日本語翻訳版は出版されていないのだと思います。

軍人であったナポレオンがフランス皇帝となり、戦争によりいっとき、支配地を広げたことは知っていましたが、恥ずかしいことにそれ以上の知識はありませんでした。過去に一人旅でパリを訪れた際、そこかしこにナポレオンの足跡を目のあたりにしたのにも関わらず、です。

アンヴァリッド(仏: L’hôtel des Invalides、旧軍病院であり、現在は軍事博物館として一部、一般公開されています)ではナポレオンの遺体の収められている棺を見ましたし、ルーブル美術館では、荘厳な「ナポレオン一世の戴冠式」の絵に圧倒されました。パリの代表的な建造物の一つである凱旋門では、夜、ライトアップされた彫刻たちが周りを行きかう車や人々の中心で、静かにパリの街を見守っていました。余談ですが、ナポレオンは、生存中に凱旋門の完成した姿を見ることは叶わなかったそうです。

「ナポレオン一世の戴冠式」
ナポレオンの遺体の収められている棺

近年になってからようやくノン・フィクションの面白さに目覚めた私は、時々、kindleでバイオグラフィーのジャンルの本を購入するのですが、その中の一冊が、“Napoleon Bonaparte : A Life”でした。兄弟や取り巻き、軍人たちなど登場人物が多いのと、聞きなれない軍事用語(しかも英語)を調べながらの読書で時おり話を追うのに苦労もしましたが、一貫して飽きることなく、楽しく読めました。

著者の主観が混じっていそうな表現が随所に散りばめられているので、もしかしたら私も多少なりとも影響を受けているのかもしれませんが、ナポレオンは英雄というよりも、ゴリ押しの独裁者だったという印象です。『こんな上司は嫌だ!』トップ10にあがりそうな気質をいろいろ持っています。

人前でも平気で相手を罵倒します。部下の手腕に嫉妬して功績を評価しないことや、約束を守らないことも頻繁にあったようです。コントロール・フリークな一面もあり、どんどん人は離れていってしまいます。しかし、前妻ジョセフィーヌにべたぼれで、遠征先から毎日手紙を書いていたとのことで、人間性が垣間見えて微笑ましい一面もあります。

エジプトやイギリス、ロシア遠征など戦争を次から次へと仕掛けるナポレオンですが、敵国はもちろんのこと、ナポレオン軍での死者数も膨大なものだったようです。無謀な戦略に加えて、移動中の水・食料・衣類などの軍備品、調達部隊の行路などをきちんと手配せずに遠征を強行するので、戦地に着く前に餓死や衰弱死する人も多数いたといいます。

膨大な戦費への資金繰りや度重なる徴兵で、庶民の負担は増すばかり。目の敵にしていたイギリスに対しては、海戦で敗退した後、イギリスとの貿易を禁止し経済政策でイギリスを追い詰めようとしますが、こちらも大陸側への打撃の方が大きかったようです。

戦争に勝てば、略奪品などで一時経済が潤うため、戦争による消費を次なる戦争で補おうとし、その準備のために、またしても国民の負担が増えていくというスパイラルに陥ってしまったのか、それともナポレオンは軍人として、戦争を繰り返すことにしか生きる手段を見出せなかったのか、とにかく戦争にまみれた人生です。

ただ、ナポレオンの、世論や情勢にたじろぐことなく、計画を遂行する精神力の強さと行動力は、浮世離れしたところがあり、やはり歴史に名を残すだけのことがあります。兵力や地形を考慮すると負け戦確定のような状況でも躊躇することなく挑んで勝利してしまったり、士気の下がっている兵士たちを鼓舞して戦況を逆転してしまったり。特に、帝位を追われて島流しにあっておきながら、フランス皇帝の座に返り咲き、ワーテルローの戦いで敗れるまで軍を率いたのは驚愕です。この期間は、後世では、「百日天下」と呼ばれています。

子供の頃から傲慢、野心的かつ頑固だったとありますが、軍事寄宿学校では、一匹狼だったためにいじめの対象になっていたというのは意外でした。軍人としてのキャリア構築、父の亡き後の家計のやりくり、地理や数学などの勉強、そして母国コルシカのフランスからの解放運動にあけくれていた時期など、名声を馳せる前の若かりし頃の彼の生活を描いた章は、意気揚々としていて、読んでいて気持ちがいいものです。

流刑地のセントヘレナ島で51年の生涯を終えたナポレオン。死因は胃癌だったと言われていますが、毒殺の説もあります。世界中に名前を知られながらも、故郷から遠く離れた地で寂しく終末を迎えた彼の人生は、幸せだったのかなあと感慨深いです。

映画「ナポレオン」が昨年、公開されましたね。しかも監督は、「ハンニバル」や「グラディエーター」を手掛けたリドリー・スコット(Ridley Scott)さんではないですか。

ナポレオンは、勇猛果敢な英雄として描かれているのか、はたまた、自己中心的な独裁者として演じられているのか。非常に気になります。まだ観ていないので、近いうちに借りて観てみようと思っています!

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