時が経つのは早いもので、シドニーに移り住んでから12年も経ってしまいました。
郷に入っては郷に従え、とは言いますが、環境に順応しようと思ってはいても、やはり、どうしても日本の文化や日本で続けていた習慣を貫き通したい部分もあります。
今日はそんな私が、今でもオーストラリアで馴染めずにいる事柄を、いくつかご紹介したいと思います。
室内での土足
多くの方がご存じかと思いますが、オーストラリアは西洋文化なので、室内は土足で過ごす家庭が多いです。
日本のように玄関に段差がないので、どこまでが土足、どこからが室内なので靴を脱いであがるところ、という区別自体がありません。当然のことながら、下駄箱などというものも、玄関に設置されていません。
そういえば、オーストラリアの家の玄関のドアは、ほとんどが内開きです。日本は玄関に靴を脱ぐスペースが必要なので、ドアは外開きのところが多いのではないでしょうか。
シドニーで一番初めの滞在地だったホームステイ先のお宅は、どこもかしこも土足で生活する環境でした。帰ったら靴を脱いでくつろぎたい私にとっては、あまり居心地のいいものではありません。シャワーを浴びた直後でも、また靴を履かないとならないですし、ずっと靴を履いて過ごしていると、足が蒸れてくる感覚があります。
かといって家の中をはだしで歩くと足の裏が汚れてしまうので、ビーチサンダルをスリッパ代わりに履いてみたりしましたが、やはり始終何かを履いているという感覚は落ち着きませんでした。
ありがたいことに、のんきオージー君は私たちの家の中で靴を脱いでくれるので(靴を履いた後に忘れ物に気づいて、靴のままアパート内を歩いてしまうこともありますが。)、私たちの暮らしているユニットは、オーストラリアのよその家庭に比べたら衛生的だと思います。
床に座ったり寝転がったりしても不潔感がありませんし、室内を歩いた足のままベッドに入っても、ベッドが汚くなると思わなくて済みます。
困るのは、来客がある時や、他の家庭にお邪魔した時です。
室内も靴で過ごすことに慣れている人が我が家にあがる時、靴を脱いでもらえるよう頼みにくいことがあります。
修理業者などは家の中を広範囲に歩き回りませんし、車に道具を取りに行くなどで外との行き来があったりするので、雨の降った後などでよほど靴が汚れている場合以外では、わざわざ靴を脱いでもらうよう頼みません。それでも、彼らが去った後、なるべく早めに掃除機をかけるようにしています。
長時間、誰かが私たちのアパート内で過ごす時や、カーペットの敷いてある場所を歩かれる時などは、靴を脱いでもらえるよう頼んでいます。
他の家庭にお邪魔する時は、けっこうトリッキーです。同じ室内に、土足のままの人もいれば、靴を脱いでいる人もいるという、微妙なシチュエーションに出くわすことがあるからです。
のんきオージー君の実家がこのパターンなのですが、誰か一人でも靴を脱いで過ごしている空間では、私はなるべく靴を脱ぐようにしています。靴のまま歩き回っている人もいるので、そのままでは自分の足の裏が汚れてしまうため、最近では室内用だけれど底が汚れてもいいスリッパなどを持っていくようになりました。自分の家に帰った時は、そのスリッパの底を拭いてから使うか、そのスリッパはもっぱら内外兼用として扱って、自宅ではいっさい履かないなどにしています。
土足で歩いた場所に、そのまま座り込んだり寝転がったりするオーストラリアの人たち。室内、特にカーペットの上を靴で歩くことに抵抗のある私。
外を平気ではだしで歩いている人もいるくらいなので、室内を土足のまま過ごすか否かは人それぞれの自由なのですが、私はやっぱり自宅では靴を脱いでくつろぐ生活をして、家の中を清潔に保ちたいと思ってしまいます。
チップス・サンドウィッチ
オーストラリア独特の文化なのかよくわかりませんが、なぜか私の知っているオーストラリア人は「チップス・サンドウィッチ」なるものを食べます。
どういう食べ物かというと、普通の食パンに、袋入りのパリパリのポテトチップスや、バーガーショップで買えるような温かいフライドポテトをはさんだものです。
食パンにバターやマーガリンを塗ってからポテトをはさむ人もいますが、基本的に他の具材は加えません。
バーガーショップなどでは、おなじみの牛肉のパテやピクルスなどのハンバーガーの具材に加えて、揚げたポテトがはさまっているメニューも、時々見かけます。
このチップス・サンドウィッチをどうも私には受け付けられず、のんきオージー君が「試してみなよ!」と思い出すたびにしつこく言ってくるのですが、まだ口にしたことはありません。
炭水化物に、あえてまた炭水化物を挟んで食べるというミステリー。
日本でも、ラーメンをおかずにご飯を食べる習慣があったりしますが、皆さんはチップス・サンドウィッチを試してみたいですか?
食器洗い
オーストラリアの一般家庭の家事を見ていて衝撃を受けたのが、食器の洗い方です。
食洗機が設置されている家庭では食洗機を頻繁に使用したりしますが、それでもやはり大きくて食洗機に収まらないまな板や繊細なカップなど、食洗機に向かないものは手洗いになりますよね。
こちらの家庭では、シンクに水を溜めて、そこに食器洗い用の洗剤をばーっと入れて泡立て、汚れた食器を入れてスポンジで洗うのですが、食器の汚れをこすって落とした後、なんと、きれいな水で流さないで、そのまま水切り用のラックに入れていくのです。
食器に洗剤の泡がついたままのことも、よくあります。
水を溜める前に、シンクを洗っているのかもしれませんが、いくらまめに掃除していたとしても、シンクを汚いものと捉えている私にとっては、受け入れがたいのです。こすっただけの汚れも、まだお皿から洗い流されずに残っているかもしれません。
それに、水で薄まって泡の状態だとしても、洗剤は洗剤で、体に入るべきものではないですよね。洗剤を舐めたり飲んだりできますかという話です。
私はどうしても、どんなにきれいにみえても、スポンジで磨いた後に、あらためてきれいな水で食器類をすすいで、汚れと泡を洗い流したい!
この件に関しては、おそらく一生慣れずに過ごしていくのだと思っています。
プレゼントのラッピング
日本と異なって、オーストラリアではお店でギフト包装までしてくれるところは滅多にありません。なので、プレゼントのラッピングはそれぞれ、自分で行うことになります。
クリスマスの時期は、プレゼントと合わせて、ラッピングペーパーやリボン、セロテープなどがいっせいに店頭に並びます。
親族一同に配るプレゼントを買い揃えるだけでもけっこうな大仕事なのですが、買い物の後に今度は包装作業が待っているので、かなり多忙です。
こちらではたいてい皆さん、同じようなプレゼントの包み方をします。
まず、包装紙の真ん中にプレゼントをどーん、と置いて紙の両端を重ね合わせて縦長にくるみ、セロテープをびたーっと、紙が合わさっている部分の上から下まで貼ります。それから、筒になっているラッピングペーパーの上の部分と下の部分をそれぞれ内側に折ってプレゼントを完全に包み、またセロテープをびたーっと、包み紙のつなぎ目に貼ります。
箱以外の形状のプレゼントも、基本的に包み紙と包み紙のつなぎ目は、全部がっちりテープでふさがれています。
紙を破る以外にプレゼントを開封する手段がないことなど、しょっちゅうです。もちろん、いくらきれいな包装紙であっても、テーブがあらゆる箇所にぎちぎちに貼られているので、再利用なんてできたものではありません。
プレゼントを貰うたびに思うのですが、やはり、日本のラッピングは美しいです。紙の面積を最大限に活用しつつ角を丁寧に折っていって包んで、使うテープは最低限の長さですよね。個人で包まれたと思われるプレゼントでも、日本では皆さん、きれいにラッピングしている印象です。
ラッピングは豪快に破って捨てるもの、との意識があるオーストラリアの文化を悪いとは言えませんが、どうせ同じ作業をするなら、もらい手が開けやすく、かつテープの後が極力見えない美しい包み方をしたいと思ってしまうのです。それは、私が折り紙の国出身だからでしょうか?
上司を呼び捨てにする
日本では、職場で誰かを呼ぶ時、「~さん」、「~課長」と、「さん」や、役職名をつけたりしますが、こちらでは友達同士で呼び合うのと同じく、ファーストネームで呼ぶことが普通です。時にはニックネームで呼ぶこともあるほどです。
相手がお客様であってもファーストネームだけで呼んだりするので、Mr.をつけるなりしてかしこまって人を呼ぶのは、よっぽどフォーマルな場合だけだと思います。
しかし、日本での勤務経験の方が長い私としては、たとえ上司やお客様がオーストラリア人であったとしても、「ヘイ、ブライアン!」、みたいに気軽に呼べないのです。
ちなみに、私が日本の外資系企業で勤務していた頃は、海外の担当者とメールでやり取りをする際、”Dear~”と相手の名前を書いていたものですが、こちらでは相手が上司であろうとお客様であろうと、たいてい皆、”Hi ~(ファーストネーム)”でメールを書き始めますね。”Dear”からメールを始めると、堅い印象があります。私はこの慣習に慣れるまで、少し時間がかかりました。
私以外にも日本人のいる職場では、日本人が名前に「~さん」とつけて人を呼ぶという文化がオフィスに浸透していたので、オーストラリア人の上司も「~さん」と呼ばれることに違和感なかったようでしたが、ローカル企業で働いていた頃は日本人と言えば私一人だったので、一人だけ「~さん」と「さん」付けで上司を呼んでいた私は浮いていたと思います。
また今後も、ローカルの企業で働く可能性がありますが、いつになったら上司をファーストネームやニックネームだけで呼べるようになるのか、見当がつきません。
海外移住の醍醐味は、旅行などの短期間滞在ではなかなか知ることのできない、文化の違いに触れられることだと思います。そこで初めて、日本ではあたりまえだったので気にも留めなかったことをありがたく感じることもあります。
反対に、他の国の文化から学んだり、取り入れたりすることもありますね。
またの機会に、今度は日本で慣れ親しんだ文化を捨てて、オーストラリアの慣習を取り入れた事柄をご紹介したいと思っています。